声に出して読みたい日本語

何年か前、「声に出して読みたい日本語」とかいう本がベストセラーになったことがあります。その後しばらく「日本語ブーム(?)」が続き似通った本が書店の棚を占領していたので、ご記憶の方も多いでしょう。私も当時、興味本位でウッカリ立ち読みしてガッカリしたことを思い出します。
 その本を立ち読みした際に感じたのは、こんな疑問でした。
「なぜ兼好法師なのか?そして、なぜ古典まで遡らなければいけないのか?」
 もちろん古典を非難しているわけではありません。しかし、我々が日々口にしている現代の言葉の中にも「声に出して読みたい日本語」は存在しているはずです。
 そこでこの度、ニューヨーク、ロンドン、丸の内のシティウィズ達に独自のルート(主に雑誌の交際欄)を使い、アンケートを実施、「21世紀版 声に出して読みたい日本語」が完成しました。この場をお借りして、アンケート結果の一部を発表したいと思います。又、この本を出版してくれる出版社も募集中です。
1位:シシャモ
「シシャモ」というのはあの骨ばった小魚のことです。5000年以上も前に地球に突然現れ、日本では縄文人も口にしていたようです。「美しさ」として特筆すべきは、やはり「シ」という非常に発音困難な音から始まり、その鬱屈を一気に解き放つキーポイント「シャ」を経て、甘美で時にエロスすら感じさせる「モ」でひっそりとまろやかに終わる発音の流れにあります。この四文字の中に、まるで短編小説のような軽快な物語性と潔さを備え、加えて可憐な小箱に入った毒薬のような刺激を感じるのは我々日本人だけではないようで、アメリカのカーター大統領が「私の少年時代のヒーローはシシャモだった」と語ったのは有名な話です。もちろん日本でもその美しさに魅せられた者は多く、いまだ多くの少年少女に愛されるエモ作家、太宰治が「自分がシシャモでないことのもどかしさ」から、名作「斜陽」を書き上げたことはよく知られています(「斜陽(syayo)」はラテン語で「海の牛乳・海の牛脂」を意味します)。発音の美が多くの人々の人生を狂わせるというのはシシャモに限ったことではありませんが、日本人に自殺者が多いのは、こういったことが原因なのかもしれません。
2位:苫小牧
地名からはトマコマイがランクインです。トマコマイに関してはおそらく北海道にあると考えられていますが、まだはっきりとしたことは分かっていません。先日北海道旅行から帰ってきた新聞記者の男性が「私は電車の中でトマコマイを見た」と発言、世間を沸かせましたが、この件に関し「伝説の域を出ていない」というのが学者達の一般的な見解のようです。但し発音に関しては、アイヌ語が起源とみられる小気味のいいテンポ、発音後の抜けの良さからくる爽快感は他の地名に例がなく、世界の様々な音楽にも影響を及ぼしたことは周知の通りです。巨匠マイルス・デイビスがビバップからモードジャズへの転向を図ったのも、映画「カサブランカ」でボギーが「もう一度あの曲を演ってくれ」と言ったのも全てはトマコマイズムのなせる技であり、アイヌ民族の面目躍如といったところです。
3位:四角い仁鶴が丸く収めましょう
NHK「生活笑百科」のオープニングで、日本を代表するスキャットマン、笑福亭仁鶴が元気いっぱいに、そして時に物悲しく叫ぶ名台詞が、主にロンドンの証券マンの支持を受けて、堂々三位に輝きました。叫んだ後に流れるパンチの聞いたディキシーランド風ジャズも、ランクインに一役買っているものと思われます。第二音節までに放たれる、ざっくりとした駄洒落と韻のハイパフォーマンス、四角、二角、丸の視覚的イメージ、そして「とりあえず収めてくれるのだな」と思わせる包容力と安心感。どれをとっても一流の日本語として通用する要素を備えています。番組が始まり、上沼恵美子が登場するあたりで魔法は解けますが、「解けない魔法はなく、解決しない問題もない」という西日本的なリアリズムまで感じさせる小品です。
以上、「新・声に出して読みたい日本語」の抜粋を紹介させて頂きましたが、あなたの身近なところにも、美しい日本語はひっそりと存在しているかもしれません。
もし、あなたが最愛の人を微笑ませようと思ったら、今までみたいにセダンの後部座席でニワトリのマネをする必要はありません。あなたは日本語が話せるのです。
以上です。アディオス。