クマのひとりごと

介護職をしていてよく言われる言葉があります
「ありがとう」「わるいね」です。
でもこの言葉は普段から比較的言われる言葉なのです。
なので感謝100%ですが、感動や感銘を受けるまではありませんでした。
そんな中僕は感動したことがありました。
A氏は90代の男性で介護度も5段階のかなり重い方です。
認知症の周辺症状がしっかり出ている男性です。
今でも170cm近くあり、僕とそう変わらない体の持ち主です。
僕はこのA氏の生活の介護をしたことがありますが、今はデイサービスのご利用者として週に1回お会いします。
普段は温厚で優しくて笑顔なのですが・・・意思疎通は大変手間取る方でした。
言葉が通じない、言葉が聞き取れない・・・という感じでした。
自己紹介でお名前を自分で発声するのを聞いたのもまだ2回目、という感じの方です。
そしてA氏なりの生活の流儀があって、それから逸脱するとへそを曲げてしまう方でした。
そうなるとつねる、叩く、怒鳴る、叫ぶ・・・それはA氏からすれば当然のこと。
でも介護する側からしたら確かに手間取ることが多かったのです。
例えば入浴するために洋服を脱いでもらっていると、順番がその日によってあるようで、やり方が違うと怒ってしまい、一切反応してくれなくなります。
「そこに対処するのが介護職だろ?」
そのとおりです。
小さいことかもしれませんが次の入浴の方もいたり、食事の時間が迫ってきたり、そういうことが重なると何とか早く入浴を始めたい、そんなことも思い焦ってしまったりします。
食事の仕方も独特で2時間程度かけてもまだ食事が終わらなかったり、食事の終わり間際にお味噌汁やお茶をなぜか床にこぼされたりもします。
行為だけに目が行くと人手と時間のかかる高齢者です。
でもA氏の不思議な行動にも必ず理由がある。
そう思ってこの方のお気持ちを理解できるように努めてきました。
「なんでこんなことするの?」ではなく
「この行動はどういう気持からなんだろう?」という感じです。
それによって少しずつ理解することができてきた・・・のかもしれません。
「あー でで なななん でえでで・・・」を一生懸命言葉として聞きました。
動きたくないときはそっと寄り添い、食事も急かすこなくお好きなだけ時間をかけて、
そしてスキンシップや理解と共感で一緒に過ごす時間を大切にしました。
そして先週のことです。
いつも通りA氏は車椅子に乗ってやって来ました。
この日入浴前のおトイレに誘うと「あああ うううう でぇなんなんななな」という感じの発声がありました。
僕がこの方の入浴を担当しているので(身体が大きくて小柄な女性スタッフだと立ち上がり介助が難しいためです)ご一緒に浴場に入りました。
ご自分では洗体がスムースにできないために手伝っているとお尻に便付着がありました。
洗体タオルを清潔にして他の部分を洗っているとやはり便が出そうになっている様子でした。
入浴はそのまま過ぎるかと思われたとき浴槽の中で排便がありました。
こちらの対処をして入浴も終わり、A氏は昼食までの間のんびりと過ごされていました。
私は浴場の清掃を行いリビングに戻るとA氏に「お腹がすっきりしましたね!」と声をかけていました。
すると「んだだだ ででで だだだだど・・・」という感じの発声がありました。
いつもなら肯定の返事が返るところですがすこし首をひねるような口調と雰囲気です。
「せっかくだからトイレ行きましょうか?」という問いかけに
「んだねぇ」と言う返事。
ではご一緒しましょう!と誘導しました。
トイレでも普段からリハビリパンツ(パンツのように履くタイプのおむつのようなものです)を下げてもらう際も流儀に反すると一切動いてくださらなくなるので注意してお気持ちを確認しながらトイレの介助をしました。
するとまだ便がはっきりと詰まっているようです。
おしりを確認するとかなりの硬便がおしりに突き刺さっているような状態でした。
これじゃ痛くて苦しい。
でも僕は介護職員。ちょうど看護師がいない日でした。
お尻あたりや背中、お腹を擦り、一緒に力み、排便しやすい姿勢を促し、声かけをして一緒におトイレの中に40分ほど入っていました。
結局、大きくて固い物がしっかりと出すことが出来ました。
「A氏 よかったですね!!」そう言いいながら後ろから肩に手をおいて話しかけました。
「んだねぇ」そう笑顔で応えてくれました。
その日はその後もいつも通り過ぎました。
相変わらずお昼ごはんは90分ほどかかったし、お薬は噛み砕こうとしたり・・・。
でもある意味日常が流れていました。
その日の帰り間際、すっきりして帰っていただくためにもう一度おトイレに誘導しました。
トイレの中でしっかりと座って前をしっかり見て、A氏が僕の方に向けて一言、こう言ってくれました。
「わるいねぇ」
僕は耳を疑いました。
でも間違いなく「わるいねぇ」でした。
一日中でも声をかけなければ何も話をせずに過ごしているA氏が
こちらからは何も言わないのにご自分から「わるいねぇ」と労ってくれたのでした。
びっくりしてもう言葉になりませんでした。
「亡くなったお父さんに接するように、自分のお父さんだったらこう接すると思う、亡くなった父と話せるんだったらこう話したい 笑顔いっぱいで一言一言噛み締めて聞きたい」
そう思って毎日接してきたことを知っているかのような優しい言葉でした。
こういう体験が出来る仕事をしていて本当に良かったな そう思いました。
人生でできる珠玉の体験をしたのです。
それはやっぱり何気ない日常から、いきなり前触れもなくやって来ました。
でもきっと僕は一生忘れえることはないでしょう。
あなたの生活のお手伝いができて幸せです。
A氏ありがとうございましたm(_ _)m

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