映画・舞台・テレビ等で活躍されているベテラン俳優長門裕之さん。昨年11月テレビの報道番組で奥様の南田洋子さんの介護を続ける長門さん、そしてお二人の実生活が紹介され大きな反響を呼びました。 先月号に続き長門さんへのインタビューの後半です。
矢野:ところでドキュメンタリー以外にも映画やドラマ、今年も精力的にお仕事をこなされましたね。
長門: NHKの大河ドラマ「篤姫」の島津斉興役、「水戸黄門」での山野辺兵庫役他多数、映画では久しぶりの主演で木村威夫監督の「夢のまにまに」で認知症の妻を介護しながら映画学校の校長を勤める木室創役、忙しい一年でした。特にドキュメンタリー公開後はこれまでと違った「講演会」「お料理番組」「出版」等多くの仕事の依頼を頂いています。私は根っからの役者です、出来る限りの仕事はこなしたいと考えていますが、一に「介護」二に「仕事」です、仕事が増えると洋子の介護の時間が・・・、今一番の悩みです。かなり前になりますが「二本の桜」(1986年NHK)というドラマで認知症の役を演じました、当時はこの病気もそんなにクローズアップされておらず、役作りに随分苦労をしました。しかし今度「ショカツの女」(テレビ朝日)というドラマで認知症の妻を介護する夫の役を演じますが、台本を見ると認知症に対する表現が随分と違う、スタッフと、とことん話し合い、誰が見ても「認知症」についての正しい理解を得られるような表現に変えていただきました。
矢野:74歳にして介護とハードなお仕事の両立、人に言えない様々な苦労や悩みがあると思いますが、ストレスはどのように解消されているのでしょうか。
長門:介護をしていて「辛かったり」「悩む」事はしばしばありました。しかし、今は洋子の介護は天命であり、これまで支えてくれた洋子に対する「お礼」と「贖罪」を含め千載一遇のチャンスと捉えていますので、全くストレスは感じませんし、洋子の「介護」が逆に私に活力を与えてくれています。実はパソコンや新しいDVD機器等を使うのが好きなのですが、介護の時間を減らすくらいなら、睡眠時間を減らしたほうが良い、と思うくらいです。ただ私もじきに75歳になります、これまでは撮影現場でも「年寄り扱いはしないで欲しい」と言っていましたが、カメラの前以外では、スタッフや共演者の方の心遣いを受け入れるようにしています。ただ、介護の現場では、洋子が体を全て私に預けてきたとき受け切れないのが寂しい、今、私が一番欲しいのは洋子を支えることが出来る「力」です。
矢野:一方が病気になっても支えあって生きる、本当に素晴らしいことだと思います。
長門:そうです、昨晩もふとしたことで私の補聴器をなくしてしまい、夜どおし探していると、起きてきた洋子が、一緒にリビングをフラフラ、ウロウロ、理解の程は分かりませんが、何かが通じているような気がし、本当に嬉しかった。結局見つかったのは朝方でした(笑)。このマンションに移り住んで3年になりますが名義は洋子です、私が先に死んだら、ここを売って老人ホームに入ったら良い、そう思っています。
矢野:最後になりますが、介護をする多くの皆さんに長門さんからのメッセージをお願いいたします。
長門:そうですね、まずは「介護される人の目線に合わせ、その方の尊厳を大切にすること。」そして介護する人は「あまり頑張り過ぎない」と言う事です。これからも洋子の介護を続けながら仕事を通してメッセージを発信し続けていきたいと思います。バナナ園グループの皆様も認知症や介護に対する啓蒙活動を積極的にしていただけるよう期待しています。
矢野:今日は本当に有難うございました。健康にお気をつけ、ますますのご活躍を期待しております。
インタビュー後記
約1時間半のインタビューでしたが、仕事はもちろん、何事においても真剣勝負の長門さん、南田洋子さんの介護も全く苦にすることなく、全力で楽しみながら対応している姿、とても輝くオーラを放っていました。長門さんもそうはいっても病を患ったことのある体。ご自身の体調管理には十分気をつけていただきたいものです。お話をされる長門さんの表情はテレビや映画で拝見する表情とは違った、本当に真剣なもので、洋子さんに対する深い愛情が言葉の一つ一つから溢れてくるものでした。快くインタビューを受けていただいた長門さん、スタッフの皆さんに心より御礼を申し上げます。
介護について語る長門さんの真剣な表情は本当に印象的でした