日曜日の朝、日本テレビ系「TheサンデーNEXT」のアシスタント・プロデューサーを努めながら番組内で野村克也元監督のインタビューアーもしている町亞聖<まちあせい>さん、アナウンサーとしても活躍されていましたのでご存知の方も多い筈。町さんは18歳から10年間、お母様の介護を経験されました。日本テレビ入社後、その経験を生かし報道記者としても医療・介護問題に積極的に取り組んでいらっしゃいます。
矢野:町さんのご活躍、テレビを通して拝見しています。さて、早速ですが町さんはジャーナリストのお立場で介護保険のこの10年を振り返りどのような感想をお持ちですか。
町:様々なことがありました。当初お年寄りに出来ることだけでなく「出来ない事は?」と問いかける「要介護認定」のあり方に疑問を感じました。ただし何らかの「ものさし」は必要です。全てのお年寄りが必要なサービスを受けられるよう実態に即した認定を行って欲しいと思います。また、本来家族介護の苦しみを開放するための介護保険でありながら、逆に昨今はケアワーカーなど介護者の心の問題がクローズアップされています。更に、数年前叫ばれた「介護予防」、流行のように介護施設にフィットネスマシーンが導入されましたが、予防も確かに大事ですが「最優先するべきことなのか?」と思いました。その他、医療と介護の連携等様々な問題が浮き彫りになりました。取材を通して感じるのは介護される人の視線で問題解決に当たること、それと、介護者教育、質の向上です。
矢野:事業者のモラルの問題もありましたね。介護者の質の問題と併せ、事業者自身も襟を正す必要があると思います。
町:介護の世界に入ってくる若い世代に、処遇や待遇は勿論、介護することの喜びを与えてくれるような、事業者やモデルケースが必要だと思います。
矢野:私たちもグループホームという介護形態の中で理想を目指したいとおもっています。
町:私自身が介護を続けてきたこともあり、本来介護は「出来れば在宅で」というのが私の考えですが、介護保険制度が始まった当初からグループホームが今後の介護の「鍵」を握ると注目されてきました。様々な介護現場を取材していますが、少人数、家庭的な雰囲気のグループホームはひとつ理想の「介護の形」ではないかと思います。それだけに先日の札幌での火災は残念でなりません。
矢野:その通りです。「行政」の指導のほかにも「ハード」「ソフト」両面で課題は山積です。
町:やはり介護される人の立場に立って考えていかないと・・・、「老いるとは」「呆ける」とはどういうことなのか、行政も含め介護に関わるすべての人たちが、原点を見つめなおして考えていかないと、理想には近づけないと思います。
矢野:さて、町さんの介護経験についてお話を伺いましょう。
町:私が高校3年生の冬、母がくも膜下出血で倒れ、手術で一命は取りとめたものの半身マヒと言語障害
、そして知能の低下もありました。介護保険は勿論、情報も少なかった時代ですから、全てが手探りで
した。当時、弟が中学3年、妹は小学6年の育ち盛りの時期。介護と共に主婦、学生と一人三役をこな
しました、大学の講義の最中に、その日の献立を考える毎日でした。母は仕事をしながらよくやってい
たなと思いました。
矢野:青春の真っ只中に、本当に大変でした。
町:全然そうは思っていないのです。あの経験が無ければ今の道には進んでいなかったと思います。家
族皆で母の介護をすることで家族の絆も深まったと思いますし。明るく介護をしていました。
町:でも私は母に対して厳しかったかもしれません。生活を共にしていくわけですから「出来ることは
してもらう」という方針で臨んでいました、病院でのリハビリはあくまで機能訓練で、やはり生活をするた
めのリハビリは生活の中でと、洗濯物をたたむところから始め、やがては茶碗を洗ったり、車椅子に乗りな
がら掃除機を操るまで回復をしました。そんな母が5年ほど経ったとき「化粧をしたい」と言い出した
ときは本当にびっくりしました。
矢野:それが介護で最も大切なこと、「してあげる」はその人の為になりません。
町:私は母のおかげで多くの大切なことに気づきました。できれば「皆さんには介護が必要になるる前
に知って欲しい」という思いがあります。例えば駅前の迷惑駐車。健常者にはわかりませんが、車椅子
が必要になって初めて「迷惑」ということが分かる。 一人一人が「もし自分だったら」と考えることで
少しでも住みやすい、優しい社会になるのではと思います。 そう言うことを伝えていくのも私の使命だ
と考えています。
矢野:最後に介護を続けている皆さんに町さんからメッセージをお願いいたします。
町:全てを自分で背負わず、ある程度心に余裕をもつことが必要。自分に余裕がないと優しい介護は出来ないと思います。その為に介護保険を含め利用できるものは利用することも必要ですね。それと、今まで出来たことが、出来なくなってくるワケですから「介護される人」を思い遣る心を忘れないでくださいね。
矢野:今日はどうもありがとうございました。これからも番組を通じて介護や医療に関わる人、そして視聴者との架け橋になってください。
集合写真2.jpg
まち あせい
埼玉県出身。立教大学文学部卒業後、日本テレビに入社。アナウンサーを経て報道部記者に、現在は情報エンターテインメント局「TheサンデーNEXT」を担当。