川崎市を中心に介護ホームを展開しているバナナ園グループでは、外部のプロフェッショナルと連携した取り組みの1つとして、狂言教室を開催しています。狂言は、笑いの芸術とも呼ばれ、世代を超えて受け継がれてきました。単に楽しさや幸福感をもたらすだけでなく、心の豊かさや認知機能にも良い影響があると考えています。
今回の記事では、和泉流 十世三宅藤九郎先生に実施いただいた狂言教室の様子と、狂言が認知症の入居者さまに与える影響についてご紹介します。
和泉流 女性狂言師 十世三宅藤九郎先生と狂言教室のご紹介
十世三宅藤九郎先生は、和泉流十九世宗家に誕生し、3歳で初舞台を踏む。14歳の時に祖父である、人間国宝九世三宅藤九郎から名跡を継承し、姉の和泉純子さんと共に“史上初の女性狂言師”としてご活躍されています。 活動は、舞台だけに留まらず狂言の普及や教育にも力を入れており、小中学校や文化庁で狂言教室を開催し、子供たちの心を楽しく育てる活動を積極的に行なっています。「ご年配の方にも狂言を通して、元気になってもらいたい」という想いから、2010年のバナナ園生田の杜・泉開設を機にバナナ園グループでも狂言教室を実施していただいております。
狂言教室の内容は、大きく分けて2つあります。
①十世三宅藤九郎先生による小舞謡(こまいうたい)の鑑賞
小舞謡とは、狂言の中で短い舞踊と歌を伴う演目。今回は、和泉流の中でも一番短く、一番楽しいとされている「兎」を披露していただき、入居者さまには日本の伝統芸能に触れていただきました。
②伝統技法「口伝」のお稽古を体験
口伝とは、師匠が弟子に直接口頭で教え伝える伝統的な教授法です。
入居者さまには、合計8回のお稽古を通して「兎」をうたえるように取り組んでいただきます。
狂言の鑑賞と体験を通して、普段の日常生活では味わうことのできない特別な時間を過ごしていただきました。
芸術に触れることで、心が豊かになる
まずは藤九郎先生の実演から、狂言教室がスタート。「兎」は、動物をテーマにした楽しい演目の1つ。狂言の中でもリズミカルな動きと台詞が特徴です。狂言を鑑賞すると、さまざまな感情が生まれると言われています。古典的な台詞による日本人としての「懐かしさ」。身振り手振りのコミカルな動きによる「楽しさ」。代々受け継がれてきたことに対する「尊敬・敬意」など。さまざまな感情が刺激されることで、心の豊かさにつながっていると考えられています。
普段なかなか外出ができない入居者さまにとって、施設内で実施される狂言教室は特別な日になっているご様子。1ヶ月に1回の狂言教室を、毎日楽しみにされている入居者さまもいらっしゃいます。狂言教室を実施することで、入居者さまの日常生活に「楽しみな気持ち」を加えられていることが、私たちとしても大変嬉しく思っています。
記憶力・身体機能向上につながる「口伝」
狂言は昔から「口伝(くでん)」で伝えられてきました。口伝とは、知識や技術、習慣などを書物や文書ではなく、口頭で継承されること。この狂言教室も、藤九郎先生から入居者さまへ口伝で実践していきました。先生の実演を見て、真似をしながら同じフレーズを繰り返し練習することで、少しずつ覚えていきます。 また、狂言は正しい姿勢を取ることが基本中の基本。お腹を伸ばす、胸を張るなどの姿勢の指導もしていただきました。はっきりと1音1音発音するために、正しい姿勢を保ったまま大きく口を開けて顔や首の筋肉を動かすことで、全身に酸素が行き渡る効果が得られます。
狂言教室は全8回。この8回で1曲を覚えていきます。同じフレーズを繰り返しながら、身体を使って覚えていくことが、入居者さまの記憶力向上につながっていると考えています。実際に、認知症の症状によって直近の記憶を保つことが難しい方でも、全8回を通して1曲うたえるようになる入居者さまも多くいらっしゃいます。お稽古の後も練習したフレーズを口ずさんでいる方もいらっしゃって、入居者の皆さまも楽しそうなご様子でした。
多角的な取り組みで質を高める、バナナ園グループのチームケア
狂言教室の他にも、バナナ園グループではさまざまな取り組みを実施しています。
・バナトレ
パーソナルジムSP-Bodyと共同開発をしたパーソナルトレーニングのメニュー。かわさき健幸福寿プロジェクトで金賞を獲得するほどの効果を発揮する、脊柱にアプローチしたプログラムです。
・水耕栽培
土を使わずに、室内でレタスを育てられる栽培装置を導入。育てる喜びを感じながら、頃合いになったら収穫し、サラダはもちろんのことスムージーやデザートにして入居者さまに召し上がっていただいています。
・音楽療法
当時の思い出や感情と深くリンクする音楽の記憶。先生の伴奏に合わせて過去を思い出しながら色々な曲を歌ったり、楽器を演奏して記憶と身体機能向上につなげています。
・口福の会
プロのフードコーディネーターを施設に招き、入居者さまにフルコースを味わっていただくイベント。目の前に広がる豪華な食事に思わず舌鼓を打つ非日常な体験を楽しんでいただいています。
狂言教室を実施いただいている藤九郎先生も含めて、バナナ園グループでは外部のプロフェッショナルを積極的に招いて、入居者さまの生活の質の向上を目指しています。このチームケアの輪を今後も広げていきながら、もっと多くの取り組みを実践して、入居者さまが「明るく・楽しく・自由に」過ごせるように、日々の活動をおこなっていきます。
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