2024年、バナナ園グループは第8期「かわさき健幸福寿プロジェクト」において、5事業所で金賞を受賞するという快挙を達成しました。このプロジェクトは、川崎市が主催する支援プログラムで、介護施設が高齢者の生活の質向上を目的として取り組む、要介護度改善や日常生活動作(ADL)の維持を評価するものです。中でも、のんびりーす等々力では、入居者であるOさまの要介護度が2段階改善したことが評価されました。この成果の背景には、入居者一人ひとりに寄り添う温かなケアと環境づくりがあります。
本記事では、Oさまの生活がどのように変わったのか、1年間を振り返りながら、のんびりーす等々力が提供するケアの工夫や魅力をお伝えします。
心を動かす“安心感を与える”ケア
写真:金賞を受賞されたOさま
のんびりーす等々力では、入居者さまが「ここが自分の居場所」と安心できる環境づくりを最優先に考えています。その取り組みが、Oさまの大きな変化にもつながりました。
2023年12月、Oさまは他施設からの転入でのんびりーす等々力に入居されました。当時は薬の副作用により日中の大半をうとうととした状態で過ごされ、新しい環境への不安もあって部屋にこもる時間が多かったといいます。「初対面の際、Oさまは知らない人が多い環境に対して慎重になっていて、私たちにもなかなか心を開いてくれませんでした」とのんびりーす等々力管理者の栗山さんは振り返ります。
写真:のんびりーす等々力管理者 栗山 玲さん
職員たちはOさまの不安を取り除くよう、言葉を丁寧に選びながら話すことを心掛けていたといいます。入居して2ヶ月ほど経った頃には、リビングに積極的に出るようになり、職員や他の入居者さまと会話をするまでに変化。栗山さんは、「安心感が生活の土台なんです。Oさまにとって、ここが自分の居場所だと思えるようになったことが、一番大きな変化だと思います」と話します。
特にOさまの場合、過去に人前に出る仕事をされていた背景があり、現在の生活とのギャップを感じることを避けたいという思いがありました。職員はこの点にも配慮し、「昔はこうだったでしょ?」といった過去を想起させる言葉は避け、「こんなふうになれるよ」と前向きな声かけを心掛けています。「過去と今を比べてしまうことで気持ちが沈む方も少なくありません。だからこそ、現在の生活を楽しんでいただけるサポートを大切にしています。」
のんびりーす等々力での丁寧なケアを通じて現在では笑顔が増え、職員や他の入居者さまとの会話を楽しむ姿や、フロアで歌を歌う姿が日常となっています。
小さな積み重ねが生む身体機能の変化
写真:バナトレの様子
心の面だけではなく、一部身体機能にも意識の変化がみられました。入居当時、Oさまは足を引きずりながら下を向いて歩くことが多く、背中も丸まっていました。職員が「顔を上げて、背筋を伸ばして歩きましょう!」と声をかけると、背筋をピンと伸ばして歩く姿が見られるようになっています。この変化の背景には、毎週行われているバナナ園グループ独自の運動療法「バナトレ」への積極的な参加があります。「パーソナルトレーナーの太田さんが来るととても嬉しそうで、いつも笑顔で参加されています。」
さらに、日常的に映像を流している「ふるさと体操」にも、自ら進んで取り組む姿勢が定着。背筋を伸ばすことを意識しながら体操を行う習慣が、Oさまの日常にしっかりと根付いています。
写真:イベントに参加されたOさま
また、音楽療法もOさまのお気に入りのプログラムの一つ。先日の音楽療法のイベントでは、息子さまと 一緒に参加し、一番前の席で大きな声で歌う姿が印象的でした。イベント後も、「とても楽しかった」と事業所で職員に話されたり、アーティストの三崎さんや奈月さんについて言及される場面があり、その感動が心に残っていた様子が伺えました。こうした活動への積極的な参加が、心身の健康改善を支えています。
のんびりーす等々力ならではの環境づくり
写真:沖縄国際大学の学生の皆さんと「太陽と森とことりの文庫」
のんびりーす等々力では、入居者さま一人ひとりの個性や背景に寄り添ったケアを行いながら、認知症の進行を緩やかにするための取り組みを行っています。例えば、施設内には沖縄国際大学の学生たちと協働で設置した、小さな図書化を再現した本棚「太陽と森とことりの文庫」があり、認知症の方に優しい本やパズル、音楽ソフトが並んでいます。Oさまもこの本棚を活用されており、お菓子の本を手に取って「昔よく食べた」と懐かしそうに話したり、人気のある芸能人の写真集を眺めながら当時の記憶を語る姿が見られています。栗山さんは「本棚を活用することで、昔の話を楽しげに語る機会が増えました」と話します。
さらに、のんびりーす等々力は市が運営する農園の一画を借りており、大根、ブロッコリーなどの野菜を育てながら地域交流の場として活用しています。「畑に野菜を見に出かけたいとおっしゃることもあって、その言葉から楽しみにしている様子が伝わります」と栗山さん。こうした自然との触れ合いも、のんびりーす等々力ならではの魅力です。
金賞受賞を通して見えたケアの力
今回の金賞受賞は、のんびりーす等々力の職員全員が取り組んできた、入居者さま一人ひとりに寄り添う細やかなケアとチームケアの成果が認められた結果です。特に、Oさまの要介護度が2段階改善されたことは、この努力の象徴といえるでしょう。
受賞の報告を受けた際、Oさまの息子さまは「身体的には衰えてきている点もありますが、以前から多量に服用していた薬を最小限の量に減らすことができたこと、精神的に穏やかに過ごせるようになったことは大きな変化でした。皆様には感謝しております」と心境を語られました。このようなご家族からの声は、職員にとって励みとなる一方で、ケアの在り方を見つめ直す大切な機会ともなっています。
のんびりーす等々力では、家族のように入居者さま一人ひとりを温かく見守りながら、その方に合ったケアを提供しています。これからも新しい取り組みを積極的に導入し、身体的・精神的な両面でさらなる改善のお手伝いができるよう努めてまいります。入居者さまが「自分の居場所」と感じられる、安心感に満ちた環境づくりを目指して、これからも前進していきます。
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